【ふるほん紹介】倫敦巴里

和田誠さんを偲んで。


日本のイラストレーションの土台を築き、時代を牽引してきた和田さん。

本の装丁や絵本で幾度となく目にしているのに、何度でも見飽きることなく眺めてしまうし、その色彩感覚に惚れ惚れしてしまう。


1965年に和田さんがアートディレクターとして参加した雑誌『話の特集』で連載した

傑作パロディ集『倫敦巴里』。絵だけでなく文章もすべて和田さんが手がけたもの。



まずは『暮しの手帖』ならぬ『殺しの手帖』。

殺しについてのあれこれ(なにやら物騒ですが、あくまでパロディですのでご了承いただきますよう)を『暮しの手帖』スタイルでお届けしています。『暮しの手帖』といえば「商品テスト」ですが、ちゃんとあります。有名ミステリの多くのトリックが参照されていたりして、それがどの作品か考えるマニアックな楽しみ方もできます。


なによりも圧巻なのは、川端康成の『雪国』の冒頭部分を他の作家・文筆家たちに語らせた文章のパロディです。植草甚一、淀川長治、星新一、長新太、池波正太郎、つげ義春、田辺聖子、横溝正史、大江健三郎など、登場する作家は30人以上。作家の肖像画(もちろん和田さんが描いた似顔絵)がまるでしゃべっているみたいに文体模写をやってのけています。大笑いしたり、苦笑いしたり、その文才の高さに驚きます。


また、イソップ童話の『兎と亀』をテーマに映画監督たちが作品を作るとしたら・・・では、黒沢明、ゴダール、山田洋二、フェリーニ、ヒッチコック、市川崑など、こちらは国内外20人以上の監督の作風をパロディ。それぞれどの作品に基づいた脚色か、こちらもマニアックな楽しみ方ができます。


他にも、いろいろな画家の筆致で描く「ビートルズ・ギャラリー」など絵のパロディもあるのですが、こちらはもう本領発揮といったところ。(ルソーのタッチで描かれた4人があまりにルソーっぽくてぞくっとします)


すべてにおいて、その観察眼の鋭さとパロディ・センスの高さにやられた!となること間違いなしです。和田さんにできないことってあるのかな…としみじみ思ってしまうくらい、どのページを開いても理屈抜きで面白く、どこまでもどこまでも遊び心に満ちた一冊なのです。


❖『倫敦巴里』 ¥2,500

著者:和田誠

発行:話の特集

発行年:昭和52年(1977)

状態:カバーに経年によるシミ、ヤブレなどありますが、中に目立った傷みはありません。

   支障なくお読みいただけます。

枇杷舎

静岡市鷹匠の路地裏で週末の一時オープンする 屋根裏小べやのようなちいさなふるほんやです

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