【ふるほん紹介】わたしの献立日記

 昭和の名優として知られる沢村貞子さんが、仕事をもつ主婦のほんのちょっとした思いつき、で付け始めた献立日記。「無地の大学ノートを買い、それを横四段に仕切って、毎晩、その日の献立と日付を書いておくことにした」もの。

 記録はとてもシンプルで、その日の献立がぱっと見ただけでわかるようになっている。でもレシピは記されていないので、そのお味は想像するしかない。もちろん料理の写真などもないので、記されたメニューを頭の中で描いて食卓に並べて・・・こちらも想像するしかない。合間に、貞子さんの食のコラムと献立ひとくちメモが差し込まれているのだけれども、これが想像の手がかりになる。どんな気分のときにどんな料理を好むのか、季節によって変わる食材や調理法のことなど、日々のささやかな変化を大事に、食に反映させる貞子さんの技が垣間見えるのだ。

 美しくおいしそうに撮られた写真がたっぷりと並ぶ昨今の料理本からしたら、お料理の写真など一枚もなく、ただ文字で綴られた献立を追って想像するだけなんてたのしくなさそうだが、これは大きな間違いで、写真以上においしそうで、味わい深く、料理のたのしみが伝わってくる。

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❖『わたしの献立日記』 ¥800

  沢村貞子/著 

 新潮社 1994年

 状態:良好

 備考:安野光雅/装画


枇杷舎

静岡市鷹匠の路地裏で週末の一時オープンする 屋根裏小べやのようなちいさなふるほんやです

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